2009年2月5日木曜日

西洋料理

 「西洋料理」と聞くと何を思い出すでしょうか。「洋食」だと、トンカツやカツレツ、ビフテキ(古い?)、オムライス屋オムレツとかが思い浮かぶのですけどね。字面だけを追えば西洋の料理なんだから、ハンバーガーもコーンフレークも西洋料理と言えないことはないのですけど、どうもそういうものでもないような。

 内田百閒著『ご馳走帖』を読み返しながら一人くすくす笑っていたら、こんな記述がありました。

東京の大学に這入つて、本郷の下宿屋にゐた時、洗濯物を取りに来る婆さんが、その家の下宿料を聞いて、それだけあれば、小さな家を借りて、専心に私の世話をし、さうして自分ひとりが食べさして頂けると云ふから、指ヶ谷町に長屋を借りて、移つた。私が西洋料理が好きだと云ふので、婆さんは玉ねぎをヘツトでいためて、胡椒を振りかけ、酢醤油の中に七味唐辛子を入れて煮立てたソースで、殆ど毎晩食膳を賑はした。(中略)急いでチャブ台の前に坐り、玉葱の西洋料理で晩餐を認める。その外におかずの附いてゐる事は、滅多になかつた。


 ヘツトってなんだろう…と調べてみると、牛脂のことのようですね。早速近くのスーパーへ行き、精肉売り場で聞いて見ました。

漬物 「すみません、牛脂がほしいんですけれど…」
店員 「白玉粉なら製菓コーナーですよ」
漬物 「白玉?」
店員 「"ぎゅうひ"ですよね?」
漬物 「や、求肥じゃなくて、牛の脂のほうの"ぎゅうし"をですね…」
店員 「あ、ああ!はいはい、今もってきますからねー」

 私の活舌が悪いのか、店員さんが江戸っ子だったのかは謎ですが、牛脂を無事いただくことが出来ました。

Gyushi

 さて、コレをいためれば油が出ると言うことのようなので、ぶつ切りにして焼いてみましょう。

Abura

 中火でじっくり焼いているとじゅわじゅわと油が出てきます。あたりにはステーキを食べるときのような臭いが立ちこめて来ましたよ。これは辛抱たまらん…このまま食べても美味いんじゃないか…ゴクリとのどを鳴らしながらも我慢我慢。酢醤油を作ります。少しだけお出汁を入れて一煮立ち。

Source

 一度火からおろして、七味唐辛子を入れておきます。酢醤油は、お好みの濃度でどうぞ。

 牛脂からでる油の量もよい感じになってきたので、厚めに切った玉葱をどーん。

Tama

 油を玉葱に絡めるように煽ります。塩コショウを少々入れて、軽くしんなりしてきたら酢醤油の投入です。

Awaseru

 じゅわー。玉葱がどんどん色づき始めました。なんだかとってもいいにほひ。コレは期待できるんじゃないかな?とニコニコしつつ、お酢がとばない程度に玉葱に味を絡めていくと、完成です。

Kansei

 早速ビール片手に実食ですよ。

 ぱくり。


 しゃくしゃくしゃく。




 (゚д゚)ウマー(てれれって てんてん てーん てれれってってって てーん ♪


 牛脂からにおい立つ牛肉ステーキのような香り!臭みはぜんぜんありません。たぶん酢醤油が打ち消しているのかな?味はなんだかお肉チックだし、酢醤油のおかげでさっぱりと、かつ、お肉特有のガツンとくる味の両方が存在している感じ。七味唐辛子の辛さがビールとご飯をどんどん進めます。最初はビールだったのですが、思わずご飯がほしくなってしまい、パクパクと食べてしまいました。ダイエット?シラネ。


 お酢はあまりきつすぎると、せっかくの牛脂の香りを消してしまいそうです。醤油が勝つくらいの酢醤油で作って、足りなければお酢をまわしかけると言ったような運用が安全だろうと思います。と、いうわけで、材料とお値段を下記しますよー。


■ たまねぎのヘッドバット(命名:中の人)

 ・ 牛脂(適量) [ \0 基本的にタダでもらえます。] 
 ・ 玉葱(1/2玉) [ \19 ]
 ・ お酢(適量)
 ・ 醤油(適量)
 ・ 七味唐辛子(少々)
 ・ 塩コショウ(少々)    [ 調味料は全部で \5 くらい?]

 合計24円程度。お財布にもやさしいと言うのがこれまたぐー。もやしでもいけるでしょうし、牛脂を茄子にすわせても美味しいでしょうし。牛脂を使った酢醤油炒めと言うのはなかなか汎用性がありそうです。

 牛脂を見かけたら是非是非お試しください。安価に肴が一品増やせますよ。ダイエット中だけど肉を食いたい!と言う人にもお勧めです。


 …結果的には、内田百閒先生は騙されたと言うことになるのかしら。世情不安定の中、自分の好きな「西洋料理のようなもの」を提供してくれたありがたさを読み取るべきなのかしら。どちらにせよ、自然に笑みがこぼれるような、そんなほっこりした、食に関する物語が詰まっているのが内田百閒著『御馳走帖』です。ご興味のある方は是非どうぞ。

6 件のコメント:

  1. ネーミングはともかくw、お手軽でうまそうですね。
    牛脂には旨み成分満載で、松坂牛の牛脂を平凡なお肉の赤身にはさんでおくと、輸入ものの安いお肉でも松坂風になるとか。

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  2. 牛脂キター
    肉を入れない野菜炒めを作るときに使ってます。
    「ホントにタダで良いの?」って思いながら使っています。美味しいんですもの。

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  3. コメおはつです。
    チラチラ読み逃げが得意ですw
    紹介していただいてありがとございまーす。
    他所のブログで見てから「作るぜー」と決心し、
    ��年も過ぎ…ようやくできたのがアレですww
    牛脂スゴー。
    牛肉の独特の匂いが苦手で
    牛が食卓にあがるのが少ないので
    いつも牛肉コーナーだけはスルーだったけど
    牛脂目的で立ち寄ってみよっと(せっこw

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  4. �� ぽんさん
     ネーミングは突っ込んじゃだめですよwwww
     なにやら、牛脂っていうのはいい肉のを使っているらしくって、昨日もらいに言ったらば「これ、仙台牛の何ですよー」と得意満面に言われました。油のうまみというのは侮れないものですねぇ(しみじみ
    �� タロウさん
     デスヨネー!なんでこれがタダなのか。需要と供給の関係なんでしょうけれど、もったいない。漬物家では現在絶賛牛脂ブームです。
    �� おかんさん
     いらっしゃいませー。お立ち寄りありがとうございます。型で抜いて組み立てる部分は何度も見入ってしまいます。
     牛脂の臭みは、私もあんまり得意なほうではないんですけれど、こう、おいしそうなにおいだけ抽出できるようなそんな感じの香りです。カロリーはどうなんでしょう?

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  5. 秋田では牛脂は精肉コーナーに普通に置かれてます。
    ただ、完全な加工品なのかまったくの「油分」なんですよね・・
    ��真っ白な形でラッピングされて鎮座)
    とはいえ試してみました。
    結果、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
    当初は不安で塩豚も混ぜてみましたが、
    肉は入れないほうが全然いいです。
    酒が進むぜ・・これははまりそうです。

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  6. > ぴすけさん
    真っ白な形でラッピングされたものが高級品らしいですよー。内田百閒の言う、「ヘツト(ヘット)」は牛の脂を切り落としたものというより、そういう風に精製されたものらしいのです。
     意外に美味しいですよね!試してくださってありがとうございますー。

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